研究科長からのメッセージ

はじめに

ある日、卒業生からこんな話を聞きました。「最近、スタンフォード大学やケンブリッジ大学など、たくさんのオンライン講義がYouTubeにアップされていて、とても勉強になります。それに、数年前から生成AIを使ったプログラミングや文章生成もできるようになっていてすごく便利ですね。」その学生は「大学院の授業や演習は必要ないのではないか。プログラミングやデータ解析のことを知らなくても、AIが全部やってくれる。」と言ったわけではないのですが、「果たして大学院教育の役割とは何か」ということを考えさせられました。

大学院教育の役割

ここ数年、オンライン講義やAIツールの進化は目覚ましいものがあります。しかし、大学院教育の真の役割は、知識の伝達や技術習得だけではありません。このような時代だからこそ、自ら考え、創造する力を有する人材を育成することが極めて重要だと思います。オンライン講義やAIツールはそのための道具です。

大学院教育の重要性

オンライン講義は便利ですが、リアルタイムに行われる講義とは違って、インタラクティブに質問し、議論することは難しいです。学術論文、ひいては修士論文や博士論文を完成させるには、日々の繰り返しの議論が欠かせません。課題の本質を見抜き、何を解決すべきか、そのためのヒントはないか、ということを見出すための議論です。どんな分野であれ、これらは対話を通じて初めて実現できるものなのです。

AIを超える人間の創造性

AIは既存の知識を組み合わせることは得意ですが、真の創造性は人間が持っているものです。独創的なアイデアを生み出し、新しい価値を生み出す能力は、どの分野でも求められています。しかも、これまで組み合わせたことのない分野の組み合わせによるブレイクスルーや、分野の境界を超えたまったく新しいアイデアなどが科学と技術の最先端を前進させる原動力であることは歴史的にも明らかです。くわえて、研究の面白さや楽しさを知ること、感動することは人間の優れた特性です。

大学院教育の場としての研究科

したがって、大学院教育は単なる知識伝達の機関ではなく、学生が自分の頭で考えて、従来の研究を批判的・超越的な立場から捉えて、過去の巨人の肩の上に立った上で、新しい考え方を創造することができるようにするため、対話や議論を行うことができる場であると言えるでしょう。

本研究科の特徴

本研究科は、データ科学、計算科学、情報セキュリティ、健康医療科学の4つの分野とそれらの融合的な研究分野において、世界的にも優れた研究成果をあげている研究者が研究と教育を行っています。また、大学のスーパーコンピュータや情報科学キャンパスに隣接する理化学研究所スーパーコンピュータ「富岳」の計算資源を大学院生が利用しやすい、公立大学ではきわめて稀な環境にあります。近年、「情報科学」や「データサイエンス」の冠の付いた大学院は急増していますが、これらの人的資源と環境は本研究科の大きな特徴と言えるでしょう。

むすび

詳しくは研究科のホームページやパンフレットをご覧ください。多くの入学希望や共同研究推進を期待しています。


情報科学研究科長
藤原 義久